堂へ養子に行ったが、素性を洗うと、むかし長崎で、和泉屋、長崎屋、佐倉屋、佐原屋の四人組に家をつぶされた天草屋《あまくさや》の次男……」
そう言い捨てて闇だまりから立ちあがると、のそのそと土蔵の戸前《とまえ》へ近づいて行って錠をはずし、拳でトントンと土扉をたたきながら、
「あたしです、仙波です……ちょっと、ここをあけてください」
間もなく、内側からガラガラと土扉がひきあけられ、顔を出したのが日進堂。つづいて、仁科も戸口へ出て来る。日進堂は、うだったような赭い顔をして、
「おお、仙波さん、どうもひどい目にあうもんで……命にかかわるかも知れないが、これじゃ、むこうがやってくる前に蒸《む》れて死んでしまいます」
顎十郎は、手でおさえるようにして、
「まあまあ、もう一刻のご辛抱。……いま土蔵からお出しして、万一、殺させでもしたら、これまでやった大捕物の意味がなくなります。おつらいでしょうが、もう少々がまんしていてください。……それはそうと、あとのお二人もごそくさいでしょうな」
その声をききつけて、長崎屋と和泉屋が笑いながら二人のうしろから顔をだした。
「その元気なら大丈夫、たぶん、事なく
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