が悪くなる。……冗談は冗談として、いつまでそんなことをしていたっておかげがねえ、もう、そろそろ切りあげたらどうだ。いくら屋根を嗅《か》いで廻ったって、こんなところに手がかりなんかあるはずはないんだ」
ひょろ松はツンとして、
「ないとは、そりゃまた、なぜに。……どんなことがあっても土扉のほうから来られるはずはないのですから、二階の広座敷へ入りこむとすりゃア、この屋根だけがただひとつの通り道。……だから、こうして、脳天を焦《こが》して……」
「まず、無駄だな」
「ほう、驚いたね……じゃア、そもそもどこから入りこんだと言うんです」
顎十郎はトホンとした顔つきで、
「それは、おれにもわからない。……それで、こうやって、せいぜい首をひねっているところだ」
「相変らずはぐらかしますねえ、まともに口をきいていると馬鹿を見る……まあ、それはいいとして、あいつが屋根を通らなかったというゆえんは、ぜんたい、どうなんです」
顎十郎は、ポッテリした顎をのんびりと指の先でつまみながら、
「佐原屋が絞め殺されたとき、えらい土砂降りだったそうだな」
「ええ、そうです」
「寮からの迎えで、お前があわてて駈けつけ
前へ
次へ
全34ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング