ながら、廂《ひさし》をのぞきこんだり、樋口を調べたり、河から照りかえす西陽《にしび》をまっこうに浴びながら、大汗になって屋根の上を走りまわっている。
顎十郎は、扇子で脇の下へ風をいれながら、うっそりとそれを眺めていたが、ああんと顎をふりあげると、おかったるい間のび声で、
「どうだ、ひょろ松、なにか眼星しい手がかりがあったか」
ひょろ松は、檐のはしへ手をかけて廂の下をのぞきこみながら、突慳貪《つっけんどん》に、
「ええ、ですから、そいつをこうして探しているんで……」
顎十郎は、ニヤニヤ笑いながら、
「そうやって、尻を持ちあげて檐下をのぞいている様子なんざ、ちょっと、鳥羽絵《とばえ》にもない図だぜ。……ついでのことに股倉眼鏡《またぐらめがね》でもしてみたらどうだ、変った景色が見えるかもしれねえ。……お江戸が見える、浅草が見えるッてな」
ひょろ松は、ムッと頬をふくらせ、
「ひやかすのはおよしなさい……そんなところで高見の見物ばかりしていないで、すこし手伝ってくれたらどんなもんです。……あっしだって、洒落や冗談でこんなことをしている訳じゃねえんでさ」
「そう怒るな……あまり怒ると腹なり
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