られる。……なんのつもりでこんな手の混んだことをしなければならなかったかと考えて見ると、船がフワフワ海の上を漂っているのを拾われるとしたら、それからそれと察しられて、はじめから誰もこの船に乗っていなかったということがすぐさとられる。それでは大きにまずいから、たった今まで二十三人の人間が残らず船にいたように見せかけなくてはならない。そのためには一日ぐらいたってから竈のめしが煮えだすように細工をしておけば、いかにもいままで二十三人の人間が残らず船にいたようにも見えようという。……これがむこうのつけ目なんだ。……このほうは、これで、だいたい見当がついたから後まわしにして、もういちど先にかえすと、十五日の朝、伏鐘の一味が与力か同心に化けて伝馬町の牢屋敷に行き、永代橋でお受けわたしするはずだったが、急に蠣店にかわったから、ちょっとおとどけすると言って帰る。伝馬町のほうではそのとおり信じて蠣店へ持って行くと、そこへちゃんと御船手役人が来ているから疑う気もなく七人の囚人をそれに渡す。言うまでもなく、この御船手役人は伏鐘の一味……いっぽう御船手役人のほうは、手はずどおり、永代橋で待っていると、送り役人
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