。……見あらわされたうえはいさぎよく白状するが、なにもこれは迷信などを信じてやったわけではない。おまえも知ってのとおり、花世は甲子《きのえね》の年の生れ、大黒様の申《もう》し子《ご》のようなやつだから、それで、こうして、いくぶんの義理をたてておる。これだけは見のがしてくれ」
顎十郎は、聞くでもなく聞かぬでもないような様子で版木をひねくりまわしていたが、なにを認めたものか、ほう、と声をあげ、
「こりゃア妙だ。……叔父上、この尊像はすこし変っていますぜ。……いままでの大黒尊像は、俵を踏んまえて、その下に鼠が二匹いる。……だれでも知っている通り、それだけのものだが、これ、ごらんなさい、この尊像には、こんなわけのわからぬものがついている」
見ると、なるほど、尊像の空白に、お灸のあとのような、妙なものがついている。
それは、こんなふうなものだった。
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弥太堀《やたぼり》
小網町《こあみちょう》の船宿《ふなやど》でわかれたきり、その後、三日になるが杳《
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