浄心寺《まるやまじょうしんじ》のおかえり、毛利さまは早稲田《わせだ》、馬場下《ばばした》の願満祖師《がんまんそし》のおかえり、鍋島さまのほうは大塚本伝寺《おおつかほんでんじ》のおかえりでございました」
「外糀町口の木戸をとおったときのそれぞれのお乗物のかずは?」
「それが、つごうの悪いことに、お三家がお通りになったのが、六つぎりぎりというところ。最後の鍋島さまがお通りになったところで、太鼓が鳴って木戸がしまり、ちょうどそこへ紀州様のお乗物がついたというわけで、したがって、お三家中の乗物の数はわかりかねるんでございます」
「うむ、よろしい。……では、木戸を出たときの乗物のかずは?」
「松平さまは赤坂見附の木戸をお通りになって、これが二十六挺。毛利さまは喰違御門をお通りになって、これが同じく二十六挺。鍋島さまは赤坂御門の桝形で、これが二十四挺でございました」
「よしよし。……それで、市村座のほうはどうだった。役者で駈落ちしたようなものはいなかったか」
「ご承知のように、ゆうべは、三座の新狂言名題読《しんきょうげんなだいよ》みの日で、猿若町は上方《かみがた》役者の乗りこみで、夜っぴてひっくり
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