あとについて歩きながら、
「馬鹿なことをおたずねするようですが、実のところ、やはり神隠しなんでございましょうか」
藤波は、フフンと鼻で笑って、
「神隠しなら、いっそ始末がいいが、そんな生やさしいこっちゃねえ、攫《さら》われたのだ」
「でも、どの木戸も出ちゃアおりません」
「なにを。……十三の乗物は、ちゃんと木戸を通ったはずだ。現に、ここにこうして投げだしてあるじゃねえか」
「そりゃアそうですが、番所には、それぞれ十人からのお勤番が控えております。いったい、どうしてその眼をくらましたのでしょう」
「たったひとつ方法がある。……木戸うちにいないとすれば、木戸から出たと思うほかはない。いってえ、どうしてぬけ出したのだろう。……ちょっと頭をひねると、すぐわかった。実にどうも、わけのねえことなのだ。……ゆうべは御影供《ごめいく》の当日で、ほうぼうの寺に御開帳があったから、ちょうどあの刻限には、外糀《そとこうじ》町口のあたりは、ご代参がえりの女乗物でごったがえしたはず。御正門ちかくで紀州様の行列を追いぬきながら、十三の乗物を自分らの行列にくりこむくらいのことは雑作もない」
朝太郎は感にたえたよ
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