と、ひどい羽目に落ちこんで、抜きさしならないことになるんです。……ことに今度の場合なんざ、あなたはたしかに見当ちがい。そればかりではない、ひょっとして、あなたの出ようによっては、十二万五千石がフイになってしまう。……源次郎というのが乞食の子だろうと、そうでなかろうと、それを突つき出して見たって、それがどうだというんです。かくべつ、なんの手柄にもなりゃあしない」
てれ臭そうに頭を掻き、
「とんだ御説法《ごせっぽう》になりましたが、筋をいやアそんなわけ。根本《こんぽん》のところは、こんなつまらないことで、あなたをしくじらせたくないと思うから。……もっとも、あなたにばかり、手をひかせようと言うのじゃない。こういう手前も、ただいまかぎり、きっぱりと引っこみをつけますから、そこんところを買って、ひとつあなたも、これで段切《だんぎ》れということにしてくださいませんか。……手前の見こみじゃ、別にわれわれが手をださずとも、時期がくりゃあ、源次郎と萩之進は、黙ってたって古河へ帰るはずなんです」
藤波は、きっぱりした顔になって、
「そうですか、話はよくわかりました。俺も手をひくからお前も手をひけという
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