たことを言っておいて、
「それはそうと、今朝ほどお手紙をさしあげましたが、まだ御落手《ごらくしゅ》にはなりませんでしたか」
 藤波は、苦りきった顔で、
「おう、誰かぼやぼや言っていると思ったら、仙波さんですか。お手紙はいかにも拝見しましたが、なにやらいっこう通じない文意で、途方《とほう》にくれたこってした。お手紙の趣きでは、なにか私がたいへんな見当ちがいをしているとのことでしたが、間違いだろうとどうだろうと、あまり人のことに口を出さないほうが、おたがいにやりいいと思うんですがねえ。あなたのお節介は今にはじまったこっちゃねえが、親切も度がすぎると、礼にはずれる。つつしんだほうがいいでしょう」
 顎十郎は、意にも介《かい》さない様子で、
「そのお腹立ちは存じておりますが、今度ばかりは、どうでも、御忠告せねばならぬような羽目で、いやがられるとは知りながら、あんなお手紙をさしあげたんでしたが、この様子を見ると、やはり私の忠告をおもちいにならなかったと見える。案外あなたもさっぱりなさらん方ですな」
「さっぱりしないのは生れつきで、いまさらどうにもしようがない。根がしつっこい男なんです」
「そりゃ
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