ってる。そういう気なら、無理に帰れたあ言わねえ。もうわずか、あと三十人ばかり、ひとつ精を出してやっつけようじゃないか」
「へえ、ようござんす」
 千太はいまいましそうに舌打ちをしながら、乞食の子のほうへ寄って行き、似顔絵とてらしあわせながら、ためつすがめつまた首実験をはじめる。藤波のほうも、高見になったところに棒立ちになって、これも油断なく、非人の子のそぶりを凄い目つきで睨《ね》めつけている。
 そこへ、土手のむこうから、
「おウ、藤波さん」
 という声。
 振りかえって見ると、のっそりと堤のむこうから出て来たのが顎十郎。しゃくるような薄笑いをしながら、二人のほうへ近づいて来て、
「ほほう、やってますな。さすがお顔がひろいだけあって、だいぶさまざまなのをお集めですな。枯木も山の賑わいじゃあないが、非人の餓鬼もこれだけ集まると、ちょっと見ばえがする。なかんずく、右手から二番目にいるのなんざあ、あなたと生写し。いわゆる御落胤《ごらくいん》とでもいったようなものなんですかな。ほれほれ御覧なさい。血統《ちすじ》は争われないもので、三白眼でこっちを睨んでいます」
 と、ぬけぬけとひとを小馬鹿にし
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