ば討論さしつかえない。籤先番により、まず藤波友衛、吟味次第を申して見よ。……さらば相たずねる。丹頂のお鶴、これなる『瑞陽』は自然に死したるものか、あるいは、人手にかかりたるものか。そちの推察はなんとじゃ」
藤波はキッと顔をあげ、遠江守をにらみつけるようにしながら、
「これなるお鶴は、まさしくひと手にかかりたるものと存じます」
「その次第は?」
「はッ。……ただいま傷口をあらため見まするところ、一見、水蛭の咬み傷の如くには見えまするが、実は水鳥を狩るにもちいる※[#「知」の「口」に代えて「舟」、第4水準2−82−23]《くろろ》の鏑形《かぶらがた》の鏃《やじり》によりできたる傷。そもそも水矢の鏑には、普通には燕尾《えんび》、素槍形《すやりがた》、蟹爪《かにづめ》のいずれかをもちいますのが方式。しかるに、この傷は猪目透《いのめすかし》二字切となっております。水矢に二字切の鏑をもちいまするは、ただひとつ伴流の手突《てつき》水矢にかぎったことでございます。……心の臓にふれて、しかもこれを深く貫《つらぬ》かず、さりげなき掠《かす》り傷の如くに見えますのは、鶴に近づいて手突矢をもって突いたゆえに
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