く大言する以上、このたびのお鶴吟味には、さだめし、確たる推察《みこみ》があるのであろうな」
顔もあげずに、藤波、
「ございます」
甲斐守は思わず乗りだして、
「おッ、推察がついたか。して、『瑞陽』は死したるか、殺されたるか」
「殺されたのでございます」
「して、その次第は?」
「その次第は、鶴御成の前日に『瑞陽』が死んだという、一点にかかっております。前日まですこやかであったものが、さしたるわけもなくこの日に死んだというのが不思議。かならずや、なにかわけあいのあることに相違ございませぬ。……ここのところを突きさぐれば、この事件はわけもなく解けあうはず。下手人はかならずかこい場のうちにあると見こみをつけました。そのわけあいも、わたくしには、うすうすわかっております」
「それは?」
藤波は首をふって、
「ひょっとすると、人間ひとりの命にもかかわる重大な事柄。推察だけで、迂濶にそれを申しあげることはできかねます。委細は、よろず見分の上、とどこおりなく開陳《かいちん》いたします。なにとぞ、それまでは」
というと、急に甲斐守の顔をふりあおぎ、
「それについて、ひとつ、お願いがございます」
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