たとしても、わずか半年で千両箱の三十ぐらいは空になる」
「いかにも!」
「……そこで、その金はどうした? 最初のうちならともかく、おいおい金高が多くなれば、ちょっとやそっとの場所へ匿《かく》しておけるもんじゃない。……無理に通用させるからこそ十両は十両で通るが、天保の改鋳以来、金分はほんの二分。……そんなものを金座の人間ともあろうものが、後生大事にかかえちゃいない。……吹屋の棟梁《とうりょう》と結託《けったく》して小判を吹きわけて純金分だけにしておけば、ほんのわずかの量ですむ。……まあ、手前はこう睨んだ。純金分にすると、なるほど金目はへるようだが、何年か後に、どこかの山の中へでもこっそり吹屋をつくって、元の小判に吹きかえればいいわけ。餅屋は餅屋で、そんなことはわけはない。……ところで、それにしたって、それだけのものを金座のなかへ匿しておくというのはあぶない。なんとかして、そとへ持ちだしたいと思うでしょう。その末、思いついたのがつまり烏凧。……ねえ、藤波さん、金座の烏凧にかぎって、ひどく重みがついていて、なんとなく高くあがれずに下まわるのはそのせいです。……そして、また、小田原町のとんび
前へ
次へ
全48ページ中46ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング