座の凧が妙にはねあがらないということ。……これは、いったいどうしたというもんでしょうね」
「なにか、釣のぐあいでも……」
「釣もそうでしょうが、手前は、それを、普通のからす凧より重いためだと睨んだ」
藤波は引きとって、
「大ぶりな鳶凧と闘わせるためには、いささか、こちらの凧を重くしておかなくてはなるまい」
顎十郎はうなずいて、
「そうそう、手前も最初はそう思った。それはわかったが、そんならば手前の軽い凧へとっかかって来なければならないはず。ところが、かならず手前の凧を避けて行く。どう考えても、金座の凧しか欲しくないのだと見える」
またしても、ニヤリと笑って、
「このへんが、なかなか微妙でね、チョイと頭をひねりましたが、しかし、すぐ解決した。なにもかも、この凧合戦のアヤをすっかり見ぬいてしまったんです」
ペロンと舌を出して、下唇に湿《しめし》をくれると、
「……もともと、手前は、石船の衝突は、まともな事件だとは思っていない。……あれは、川なかですりかえたと思わせるための見せかけで、あのときは、なんの事件もなかったものと睨んでいる。……なぜかと言いますとね、どんな器用なことをしても
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