金蔵方、立馬左内のせがれの芳太郎という子供をお手あてになったそうで……」
「それが、どうした」
「いちいちお咎《とが》めでは、お話もできません、まあ、平に平に。……くどいことはお嫌いのようですから、ざっくばらんに申しますが、どうも芳太郎という子供がかわいそうで、なんとかして、無実の証《あかし》を立ててやりたい、……それで、出しゃばりの譏《そしり》もかえりみず、出しゃばりをしているわけなんで……。ご承知の通り、手前は当今、ほうぼうの役割部屋で養われている名もない権八、これで功名しようの、あなたをやっつけようの、そんな娑婆《しゃば》ッけは毛頭《もうとう》ない。……ただもう、その無実の人間を助けるのが道楽とでも申しますか……」
藤波は、キュッと眼尻をつりあげて、
「だいぶ、気障《きざ》なセリフがまじるようだが、では、あなたは芳太郎が無実だという、たしかな証拠をにぎっているとでも言うのか」
「証拠になるかならないか、それは、これからご相談しようと思うのですが……」
おほん、と咳ばらいをして、
「このたびのあなたのお手あての理由は、芳太郎という子供が、時ならぬ朝の六ツごろ、白地に赤二本引きの
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