も妙だとは思わないか」
「へへえ、行灯凧がね……」
「わからなけりゃ、わからなくともいい……。おれは、これから松平越前の厩へ行って見るつもりだが、ちょいと話したいことがあるからといって、藤波を呼んで来てくれ。……おれからの呼びだしだといや、あいつも意地づくだから、かならずやって来るだろう」
「そんなお使いならお安いご用ですが、藤波に呼びだしをかける以上、なにか、きっぱりしたお見こみでもあるのですか」
「見こみは、これから考える。……まあ、なんでもいいから、藤波のところへ行って、ご足労だが、仙波阿古十郎が松平越前の厩わきで待っているからすぐ出むいてくれ、と言ってくれ」
「へい、よろしゅうございます。……どうせ、あなたのすることだ、まともに受けてたんじゃしょうがねえ。……よござんす、行くだけは行って来ますから、泣かずに遊んでいらっしゃい」
小火
矢場のとなりが広い馬場で、その横に厩が長い横羽目を見せている。
二日前の晩、小火があったあとで、厩の片はしのほうが五間ばかり半こげになり、馬立ての丸太が黒こげになって、ビショビショの地面の上にいくつも寝ころんでいる。
火事あとの水た
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