顎十郎捕物帳
三人目
久生十蘭

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)ご書見《しょけん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)白足袋|跣足《はだし》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)久生十蘭全集 4[#「4」はローマ数字、1−13−24]
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   左きき

「こりゃ、ご書見《しょけん》のところを……」
「ふむ」
 書見台《しょけんだい》から顔をあげると、蒼みわたった、鬢《びん》の毛のうすい、鋭い顔をゆっくりとそちらへ向け、
「おお、千太か。……そんなところで及び腰をしていねえで、こっちへ入って坐れ」
「お邪魔では……」
「なアに、暇ッつぶしの青表紙、どうせ、身につくはずがない。……ちょうど、相手ほしやのところだった」
「じゃア、ごめんこうむって……」
 羽織の裾をはね、でっぷりと肥った身体をゆるがせながら、まっこうに坐ると、
「御閑暇《おしずか》なようすで、結構《けっこう》でございます」
 こちらは、えがらっぽく笑って、
「おいおい
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