顔で死んでいるんです……」
藤波は、底意《そこい》ありげな含み笑いをして、
「ふん、あの仏にしちゃ、おかしかろう」
千太は、うなずいて、
「まったく、あの毒虫にしちゃ、もったいねえような大往生《だいおおじょう》で、みなも、呆気にとられたくれえなんでございますよ」
「あんなのを、女郎蜘蛛《じょろうぐも》とでもいうのだろうの。蕩《た》らしこんじゃア押しかけて行って金にする。それも、ちっとやそっとの額じゃ、うんとは言わねえ。……千賀春が死んだときいたら、ほっとするむきア、三五人《さんごにん》じゃきかねえだろう。……それにしても、都合のいい時に死んだもんだの。すりゃア、まるで、ご注文だ」
「ですから、その辺のところは、実にうまくしたもんだというんです。……そりゃア、ともかく、なるほど評判だけあっていい器量だ。引起したところを見て、さすがのあっしも……」
「惚れ惚れと、見とれたか」
へへへ、と髷節《まげぶし》へ手をやって、
「いや、まったく……あれじゃ、だれだって迷います。罪な面だ」
広蓋へ小鉢物と盃洗をのせて持ち出して来た小間使へ、用はないと手を振って、
「……だが、たったひとつ、難が
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