って見ろ」
ひょろ松は、立って行って長火鉢のむこう側へすわり、火鉢越しにせいいっぱい手をのばして見たが、とても銚子までは届かない。
「おい、ひょろ松、たったひとりで独酌をやっているやつが、そんなところへ銚子をおくか?……二人が忍んで来るすこし前に、誰かここで千賀春に酌をしていたやつがある」
「……なるほど」
「ついでだから、言っておくが、杉の市も下手人でなけりゃあ、角太郎も下手人じゃねえ」
「えッ」
「千賀春は、二人がやって来る前に……もう、死んでいたんだ」
ひょろ松は、膝を乗りだして、
「……するてえと、ここにいたやつが本当の下手人なんで」
顎十郎は、のんびりした顔で天井をふりあおぎながら、
「さあ、どうかな……ともかく、そいつは、間もなくここへやって来る」
「ここへ……あの、やって来ますか」
「女だ……まず、芸者かな。……その証拠を見せてやるから、もう一度、長火鉢のそばへ寄れ」
ひょろ松を長火鉢のそばへすわらせ、じぶんは立ちあがって、行灯をすこし上手へ移し、
「こうすると、火鉢の灰の中に、なにかキラリと光るものが見えるだろう。……ほじくり出して見ろ」
ひょろ松は、いきなり
前へ
次へ
全30ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング