に八畳六畳という妙な間取り。その奥が勝手になって、裏口から露路へ出られるようになっている。
 勝手につづいた六畳で、足を投げ出している顎十郎。壁にもたれて、いかにも所在《しょざい》なさそうに、鼻の孔をほじったり無精髯を抜いたりしている。
 そっと、裏口の曳戸があいて、忍ぶようにひょろりと入って来たのが、ひょろ松。
 顎十郎のそばへ膝行《いざり》よると、大息をついて、
「やはり、お推察通りでございました」
 顎十郎は、うなずいて、
「そうだろう、……それで、藤波のほうはどうだ。やって来ると言ったか」
「おつかい通り、きっちり亥刻《よつ》(午後十時)にお伺いするという口上でした」
「それならいい、亥刻より早く来られちゃ、ちょっと迷惑だ」
 ブツクサと呟いてから、
「それで、杉の市が自白《はい》たか」
「なかなか強情《しぶと》うございましたが、ぼんのくぼの鍼痕のことを申しますと、とうとう白状いたしました」
「左手に撥を持たせたのも、杉の市の仕業だったろう」
「さようでございます。……角太郎が、じぶんに濡衣を着せるつもりで、こんなことを仕組んだのだ、とうまく言い逃れるために、逆の逆を行ったわけ
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