でございます……」
「よく喋言《しゃ》べるやつだな。……して見ると、その杉の市という按摩はちょっと小悧口《こりこう》な面をしているだろう、どうだ」
「いかにもその通り……按摩のくせに、千賀春なんぞに入揚げようというやつですから、のっぺりとして、柄にもねえ渋いものを着《つ》けております」
「ふふん、それから、どうした」
「……なにしろ、他人《ひと》の首に繩のかかるような大事でございますから、うかつにこんなことを申しあげていいかどうかわかりませんが、たったひとつ思いあたることがございます……」
「なるほど、そう来なくちゃあ嘘だ」
「……やはり、千賀春の講中で、いわば、あっしの恋敵《こいがたき》……」
「と、ヌケヌケと言ったか」
「へえ」
「途方《とほう》もねえ野郎だの。……うむ、それで」
「……芝口《しばぐち》の結城問屋《ゆうきどんや》の三男坊で角太郎《かくたろう》というやつ。……男はいいが、なにしろまだ部屋住《へやずみ》で、小遣いが自由《まま》にならねえから、せっせと通っては来るものの、千賀春はいいあしらいをいたしません。……ところで、こちらは、そのころは、朝ッぱらから入りびたりで、さん
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