あばずれのことは、部屋でよく聞いて知っているが、おれにゃア、藤波なんぞから悼《くや》みを言われるような差合《さしあい》はねえのだが……」
 ひょろ松は、穴でもあったら入りたいという風に痩せた身体をちぢかめて、
「ちょっとお誘いすりゃアよかッたんですが、うっかりひとりでかたをつけたばっかりに、また大縮尻《おおしくじり》をやっちまいまして……」
「お前の縮尻は珍らしくはねえが、お前が縮尻をするたびに、藤波なんぞから手紙をぶッつけられるのは大きに迷惑だ。……これ見ろ、この手紙の終りに、白痴《こけ》と言わんばかりの文句が書いてある。……この手紙は、おれの名あてだから、白痴というのは、おれのことか知らんて。……して見ると、なかなかどうも、怪《け》しからん話だ」
 と、とりとめない。
 ひょろ松は、手でおさえて、
「そのお詫《わ》びは、いずれゆっくりいたしますが、実ア、藤波は、あっしのところへも手紙をよこしましたんで、読んで見ると、くやしいが、なるほど思いあたるところがある……」
「なんて言ってりゃア世話はねえ……この節、御用聞の値が下ったの」
「なんと仰言られても、一言もございませんが、森川の旦
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