》で、それがふるいつきてえほどいいのだと。面白れえじゃねえか、それから、どうした」
 貧相な撥鬢奴《ばちびんやっこ》は、すっかり恐れてしまって、首に手をやって、
「えへへ、どうも、とんだことを……」
 藤波はいよいよ蒼ずんで、
「なにも尻込みをすることはなかろう。……それとも、俺がいちゃ気色《きしょく》が悪くて話も出来ねえか」
「と、とんでもない」
 と、息もたえだえ。
 藤波は、唇の端だけで、もの凄くニヤリと笑って、
「そうか。飛んでもねえということを知っていたのか。なら、まだ人間並みだ。俺もいい下廻りを持ってしあわせだ、ふふん」
 中で年配なのが、おそるおそる顔をあげて、
「なにか、あッしども、しくじりでも……」
「笑わせるな。しくじり[#「しくじり」に傍点]なんて気取った段じゃねえ。……なんだ、今度のざまア。てめえら、それで生きているのか、性があるのか」
「な、なんですか、一向にどうも……」
「ざまア見ろ、そんなすッ恍《とぼ》けたことを言ってやがるから、しょうべん組などに出しぬかれるのだ。おい、俺の面をどうする」
「ですから、どういう……」
「聞きたけりゃァ言って聞かしてやる。…
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