、ここでじっくり糸を垂れていると、……かならず釣れるか、おまえ、きっとうけあうか」
 みょうにからんだようなことをいう。
 ひょろ松は、へこたれて、
「うけあうという訳にはいきませんが、まあ、ひとつやってごらんなさいまし」
「まあ、じゃ、いやだ。おまえが、かならず、うけあうといわなきゃア、この辺で水を蹴ッくらかえして釣れないようにしてやる」
「こりゃアおどろきましたな。……じゃ、まあ、うけあいますからやってごらんなせえまし」
 顎十郎は、ニヤリと笑って、
「よし、とうとううけあうとぬかしたな。きっとおれに釣らせるな。……ときに、ひょろ松、おれが釣ろうというのは、腹の白っこい、指ほどの鱚じゃねえんだぜ」
「へへ、じゃ、鉄炮洲で赤穂鯛《あこうだい》でも釣ろうとおっしゃるんですかい」
 顎十郎は、首をふって、
「いや、もっと大きい」
「ごじょうだん。……じゃ、三崎の真鰹《まながつお》でもひきよせようッてんですかい」
「どうして、まだまだ」
 顎十郎のいい方はすこし憎体《にくてい》である。
 ひょろ松はムキになるたちだから、ムッとして、
「じゃア鯨でも」
 顎十郎は渚に棒杭立ちになったまま、な
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