顎十郎捕物帳
鎌いたち
久生十蘭

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)魚釣談義《うおつりだんぎ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)釣|気狂《きちが》い

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「魚+與」、第4水準2−93−90]《たなご》釣り
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   魚釣談義《うおつりだんぎ》

 神田小川町『川崎』という釣道具屋。欅の大きな庇《ひさし》看板に釣鈎《つりばり》と河豚《ふぐ》を面白い図柄に彫りつけてあるので、ひとくちに、神田の小河豚屋《しおさいや》で通る老舗《しにせ》。
 その店先に、釣鈎や釣竿、餌筥《えばこ》などをところも狭《せ》にとりひろげ、ぬうとかけているのが顎十郎。所在なさに、とうとう釣りでもはじめる気と見える。
 顎十郎と向きあっているのは、辣薤面《らっきょうづら》のひどく仔細らしい番頭で、魚釣りの縁起、釣りの流派、潮のみちひきから餌のよしあしと、縷《る》々としてうむことがない。
 阿古十郎のほうは、例のごとく、垢染んだ
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