上州あたりの繭問屋《まゆどんや》の次男とでもいったような身装《みなり》をしている。
「どうした、だいぶ、野暮ったく光らせているの」
 ひょろ松は、へへと髷節に手をやって、
「わっしも、なんとかして咽喉笛を斬られてみてえと思いましてねえ、それでこんな、きんきらをひきずって、根気よく毎日、佃のあたりをうろついているんでございますが、今日はとうとう匙《さじ》を投げましてございます。……五日前の矢《や》の倉《くら》不動《ふどう》の前のは、やはり物盗《ものとり》じゃございません。持って出たと思われる五十両は、てめえの家の神棚の上にのっかっていたそうでございます。これにゃ、どうも……」
 庄兵衛は、シタリ顔で、
「それみろ、やはりかまいたち[#「かまいたち」に傍点]だわい」
「わっしもいよいよ我を折りました。しかし、越後、信濃にはございましたろうが、開府《かいふ》以来、江戸にはまだなかったことでございまして、それが、どうも腑におちませんのでございます」
「そのへんが妖怪の融通無碍なところであろうて。越後信濃は今年は不作で、だいぶ暇だそうだからの」
 と、吐きだすようにいう。さすがに、むしゃくしゃし
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