アムンゼンという人がシャルルマーニュ伯爵に献上したパタシヨン・パタポンという有名なペンギン鳥で、お辞儀もすればダンスもする、金を賭けて骨牌《カルタ》もする、生臭《なまぐさ》ものは一|切《さい》嫌い。鶏《にわとり》の丸焼きだの凝血腸詰《プウダン》などを喰べて、寝るにも起きるにもまるで普通の人間と少しも違わないのよ。それでシャルマーニュ伯爵は大変お可愛いがりになって、ピカピカする燕尾服を着せて夜会のお供をさせたり、野遊びに連れて行ったりしていたのですが、ある日そのパタシヨン・パタポンがむやみにシャンパンを飲んだまま遠乗りに行って、その途中馬から河の中へ落ちて溺死してしまったのよ。屍《なきがら》は泣く泣くモンパルナッスの墓地に葬ったのですが、毎年春先きになると、燕尾服を着たペンギン鳥が一匹ずつ生え出して来るんだよ。ここへ連れて来たのはちょうど今年の春芽を出した奴で、花ならばまだほんの莟《つぼみ》みたいなようなもんだけど、利口なことにかけたら、先祖のパタシヨン・パタポンなんか足もとへも及ばないぐらいなのよ。ラテン語でも哲学でも自由自在にあやつって、真面目《まじめ》な顔をして人をやり込める様子な
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