いや、承知しました、大丈夫」といって、コン吉が杖にすがりながら垂れ幕の後ろによろけ込んで待つ間もなく、広場の四方の小道からただならぬ人馬の喚声が湧きたったと思うと、火事だ! 火事だ! とわめき立てるバルトリ君を先登にして二十人余りの農夫と一人の憲兵と竜土水の水管車が鉄砲玉のようにテントの中へ駆け込んで来た。
四、花ならば莟《つぼみ》、ペンギン鳥の若芽。満堂の紳士諸君。どうも運の悪い時は仕様のないもので諸君の素晴らしい水管車がここへ入って来たとたん、火事は諸君の威勢に驚いたものか、とたんにパッと消えてしまったのよ。どうか悪く思わないでちょうだい、せっかくお見えになったのにあいにくなんのお饗応《もてなし》もできませんが、その代り、これから巴里《パリー》の技芸学校出身のペンギン鳥の曲芸をお目にかけますから、どうか見て行ってちょうだい。ときに、諸君は葉巻きを喫《す》うペンギン鳥を見たことがありますか。もしなければどうか後学のために見ておく必要がありますね。そもそもただ今このところへ立ち現われますペンギン鳥は、南極や北極にいるペンギン鳥とペンギン鳥が違うのよ、この先祖というのも、一九二〇年に
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