って来ないようなら、力づくで引っ張り込まなければなりません。「呼び込み」は喇叭《ラッパ》とタンボリンを使うこと。歌の節は「ブースさんの羊は毛のない羊……」というあれがよございます。このへんではハイカラなものよりも田舎田舎したものの方がいいのです。呼び込みの口上はマドモアゼル・タヌにお願いしましょう。バルトリは口下手で、それにやたらに唾《つば》を飛ばしますから、お客様に失礼になっても困りますから。ムッシュ・コンキーチは、客から見えない垂れ幕のうしろにいて、バルトリがペンギン鳥の水槽の縁をたたいて、
「みっちゃんやア!」
と叫んだら、なるたけ憐れっぽい声で、
「|あいよウ《ヴォアラア》!」と返事をして下さい。田舎の客というものは、この声を聞くとみな正体がなくなるほど泣き出して、木戸銭のほかに、またいくらか「鰯代」を皿へ投げ込んで行ってくれます。これは三人のお惣菜《かず》代にして下さい。書きたい事は山々あれど筆にも口にも尽せません。右どうかよろしくたのみます。
[#地から3字上げ]お二人さまの命の親J
三、火事が駆け出し広場は沸騰す。風車小屋と小さな醸造場のあるリルの村の広場に、ともかく
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