トえのは、行ったきりでもどって来ねえなんて鉄砲玉みてえなお話とちったア訳が違うんだヨ。よウく耳の穴をカッぽじって聞いチくんねエ。……入用なものてえのは、潜水具二着と、送風ポンプが一つありゃあそれですみさ。わけのねエ話ヨ。……いいかねいってエ、海に沈むときにゃア、知ってもいようが、身体《からだ》が浮かねえように、ってんで、十キロもある鉛錘《プロン》ってのを胸へさげるんだ。ところでだ。山へ登るにゃア、そんならば反対に浮袋《うき》をつけたらいいだろうてンだ。まず、おめえサン方は海へもぐる時と同じように、潜水着を着てしっかり甲《かぶと》をかぶる。するてえと、あっしらは送気ポンプでもって、空気の代りに水素|瓦斯《がす》を送ろうッてんだ。そこでサ、おめえサン方は、性《たち》のいいゴム鞠《まり》のようにふくれあがって、岩壁のすぐそばを足で舵をとりながら、つかず離れず、って工合に、そろそろゆっくりと登って行くんだ。そイデ、無事に頂上へ着いて一服したら、どうか信号綱をきつウく三度引っぱってくんねエ。すると下じゃその合図で、そろそろと瓦斯を抜くから、おめえサン方は、御用済みになった観測軽気球みてえに、斜め
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