オ、テンピ、くるみ割り、レモン汁絞器《しぼり》、三鞭酒《シャンペンシュ》、ケチャップ・ソース、上靴、小蒲団《クッサン》、ピジャマ、洗面器、マニキュア・セット、コロン水、足煖炉、日章旗、蓄音機、マンドリン、熊の胆《い》、お百草、パントポン、アドソルピン、腸詰め、卓上電気、その他いろいろ……
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という工合に、机の上と下に参差落雑しているので、さすがのコン吉もあきれ果て、
「つかぬことをうかがうようですが、このマンドリン、ってのは一体何の代用に使うのですかね」とたずねると、タヌは口をとがらして、
「馬鹿ね(高い山から)の伴奏を弾くんじゃありませんか」といった。
五、河童《かっぱ》の川知らず、山案内《ギイド》の身知らず。ブルタアニュの漁師の着る寛衣《ブルウジ》にゴム靴という、はなはだ簡便な装《いでたち》をした吃《どもり》のガイヤアルの角灯《ランテルヌ》を先登にして「|尖り石《ピエール・ポアンチユ》」のホテルを出発。ボッソン氷河の横断にとりかかったのは翌朝の午前三時。
見あぐれば淡い新月に照らされて、碧玉随《へきぎょくずい》のような螢光を発し、いまにも頭の上に落ちかか
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