がて『山猫』は『爆撃機』の角《つの》の間に角を差し入れ、右にひねり左にひねりしてじりじりと押し始めた。『爆撃機』はおいおい後退して柵のそばまで押しつけられ、そこで、少し尿《いばり》をし、間もなくその尿の上へどたりとひっくり返された。
次は、アルル対アヴィニョンの取組み。
[#天から3字下げ]活火山――屠牛所長。
これはいたってあっけなくかたづいた。『活火山』は、『屠牛所長』に胸の下からすくわれ、よく晴れた空から牛が一匹降って来たように、どたりと砂場に落ちた。それでおしまい。
そこでいよいよマルセーユの『ヘルキュレス』対、片《かた》やコルシカの『ナポレオン』の顔合せだ。なにしろ思いも掛けぬ不遜《ふそん》な挑戦にマルセーユ人はすっかりカンカンになっている。コルシカに牛の喰物なんぞあるものか。そんな栄養不良の牛にマルセーユのヘルキュレスが負けてたまるものかというので、ナポレオンが砂地へ出るとたちまち、ドッとばかりに笑い声をあびせかけた。なるほど笑いたくもなるというのは、ナポレオンは広々とした明るい砂地へ出ると心持がよくなったとみえて、そこんとこへ長々と寝そべったからだ。桟敷にはたちまち
前へ
次へ
全32ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング