一日一杯山中を追い廻したことががしたが、……へえ、それではさっそく青い操布《ムレエータ》であしらってせいぜい突撃術とやらの修業をさせることにいたしやしょう。……それにつけても、お二人さんのお話では、ヘルキュレスの奴め、前足に腫《は》れ物ができているということでがんしたが、なにしろ日もないことだし、それ例の読心術の応用で、藁牛《わらうし》の前足に的を付け、そこばかり一心に突かしたら、阿呆《あほう》も一字で、きっとうまくゆくに違えございません」
これは名案だというので、さっそく藁を束ねて牛を作り、しきりにあとから駆り立てるところ、血の廻りの悪いナポレオンも、ようやく事の次第を了解したと見え、むやみに駆け寄っては突きかけるが、どういう故障かなかなか思う的に行きあわない。
しかし、コントロールの悪いのは未熟のせい、いずれおいおい上達することであろう。
おいおい練習も日数を重ね、かたがたタヌは、青唐辛子、山の芋《いも》、珈琲《コーヒー》、蝮酒《まむしざけ》、六|神丸《しんがん》と、戦闘的|食餌《しょくじ》を供給するものだから、ナポレオンはたちまちのぼせあがって両眼血走り、全身の血管は脈々と
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