「なかなか結構なお仕組みです。しかしですね。ちょっと御質問いたしますが、この修身というのと会話というのは一体どんな事になりますのでしょうか」と、たずねると、先生はこともなげに、
「いかさま、これは人間のために作った教課でありますから、牛様には不適当な部分もあるかと存じますが、しかし、当校の方針といたしましてはですナ、万事平等、友愛、牛であろうと人間であろうと選ぶところはない、一|切《さい》無差別に教育いたします。でただ今質問になりました修身ですナ。しかし、古来犬にも徳育、豚にも愛嬌という諺があります。されば牛に修身の教課が必要ないということはありませんナ。本校の修身と申しますものはもっぱら牛道の基礎となる騎士的精神に磨きをかけるためでございます」
「ごもっともさま、そのご意見には大賛成でございますわ。でもね、この馬術というのはどういう事なんですの。牛が馬に乗る……ちょっと想像ができませんわ」
「これはしたり。馬術でいけなければ、牛術でもよろしゅうございましょう。これは乗るほうでなくて載《の》せるほうですヨ。好きなやつなら乗せる。いやなやつなら振り落す、と、この根本の技術を教えるためで
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