》みてえになっているのを、ようやく揚捲機《あげまきき》で船まで引っぱりあげたが、ああ、さすがはコルシカの牛でがす。この敵《かたき》はきっと忰《せがれ》に討たしてくれよ、と一言いい して、船艙《キャアル》の口から飛び込んで船底に頭を打ちつけてごねやした。泣く泣くみなでビフテキにして喰っちまいましたが、いや、喉に通るや通らずで、ほんに辛い思いをいたしやした。その時この野郎は一年にもみたねえ八ヵ月、まだ角も生えねえ柔弱《やわ》な奴でしたが、親の恨みは通うものか、朝は早くから野山羊と角押しする、郵便配達を追いかけるワ、橄欖《かんらん》畑を蹴散らすワ、一心に修業に心を打ち込む有様というものは、はたの見る目もいじらしいほど、だからわしらも共々に赤布《ムレエータ》であしらう、網をかけて引き倒す、水泳《みずおよ》ぎをさせる、綱渡りをさせる、寝る目も寝ずに仕込みまして、どうやら荒牛《トオロオ》らしい恰好だけはつけましたが、なにしろまだ一歳と六ヵ月。それに相手はフォレの囲い場に頑張って、当時|旭《あさひ》の昇るような勢いの『ヘルキュレス』、勝目のところはよく行って四分六《しぶろく》、せいぜい七分三分の兼ね
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