合いというところ、何分《なにぶん》にも望みのすくない話でごぜますが、そこのところをなんとか智慧をしぼれば勝てねえわけもねえのでがす。さ、両先生、お願いと申しますはここのところ、ひとつ、助けると思って、頭をひねり、ぜひとも勝たしてやっておくんなせえ。『ヘルキュレス』を円戯場《アレエヌ》の砂に埋めて、忌々《いまいま》しいマルセーユ人に鼻をあかしてやらなければ、コルシカ人は大きな顔をしてプロヴァンスの街道を道中できねんでごぜえます。おいおい族長《パトラン》も若いやつらもあとからやって来て、応援掛声のほうはなんとでもいたしますから、どうか肩を入れておくんなせえまし。これヨ、ナポレオン、ぼんやりしていねえでお前からもひとつお願いするがよかろう。おお、そうか、よしよし。両先生、見てやってくだせえ。ナポレオンもあの通り手を合わしてお願いしておりやす。ね、よろしくたのむッ! コルシカのためでがす。
四、酒の酔いは色に出《い》でけり赤煉瓦色に。コン吉とタヌが薔薇《ロジェ》の木の花棚の下で待っていると、目もはるかな荘園に続く大きな木柵《もくさく》をあけて、皮の脚絆《モレチエール》をはき、太い金鎖《きんぐ
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