マッキオ》の中にかすかに切り開かれた『|蛇の道《セキエール》』をくぐり抜け、黒柳の生えた大きな谷の縁を小《こ》半日も廻って行くのである。
 コン吉は、タヌと検査官のうしろから、騾馬《ろば》の背に揺られ、絶えずキョトキョトと落ち着かぬ視線を前後左右に放ちながら続いていったが、やがて、
「これは全く人跡未踏ですね。この半日、一人の人間にも出あわなかったじゃありませんか。……つかぬことをおうかがいするようですが、このへんにもやはり東洋ぎらいのコルシカ人ってのがいるのでしょうか」と、たずねると、検査官は肩をすくめて、
「これは意外ですね。途中に幾人《いくたり》もいたじゃありませんか。松の木のてっぺんにもいたし峠の躑躅《つつじ》の繁みの中にもいました。みな鉄砲を持っていましたよ。……あれは、前科者《プロスクリ》とか森林山賊《チュシナ》とかといういかめしい連中なのです。ぶっそうなことにはね、コルシカ人ってのは、みな鉄砲の名人です。十町も向うから暗夜に烏の眼玉を射抜《いぬ》こうという腕前です。それからコルシカ特有の匕首《プニャアレ》を実によく使います。そっとうしろから忍び寄って、これぞと思う生物の肩
前へ 次へ
全26ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング