胛骨《かいがらぼね》のところへ、威勢よくそいつを突き通す。それから、ゆっくり(寝くたばれ!)といってきかせるのです。突き刺された方は、そこで、急いで寝くたばってしまう。千に一度の失敗《はずれ》はないのです。一九二〇年のことでした。私の同僚がやはりこのへんの検査に来た。そこでやむを得ない行きがかりからその部落の族長《カボラル》を、(この溝鼠《サロオ》!)とどなったんだ。その検査官はアルサスの営林大区へ栄転して、間もなくそこで死にました。すると、ちょうどその一周忌にも当ろうという朝、彼の十字架の肩のところに、コルシカの短剣が一本突き刺されてあったということです。つまり、コルシカ人ってのは非常に義理がたいところがあるのですね。五法《サンスウ》借りたら五法《サンスウ》返す。……ま、そんな工合です。だから、コルシカ人につまらない真似をすると、地球の果てまで逃げ廻ったって無駄です。必ずどこかでやられてしまう。これだけは確かです」
語りつづけているうちに、やがて目の下に、乏しい黒い部落を浮べた小さな丘が見えて来た。検査官は、その丘を指さしながら、
「あれがタラノの部落です。あそこに大きな雑木林《マ
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