寄せられたもやし豆の兵隊のように、族長《カボラル》を先に立て、総員十六人の村中が、一人残らず『極楽荘』の門の前に集まって来、そこでもじもじと身動きしていたが、ごった煮はいよいよ香《かん》ばしく煮えあがる。コルクを抜く音はポンポンと響く、そこでたまりかねたのであろう。お互いに肱《ひじ》で前へ押し出し合いながら部屋の中へ入って来た。そして注がれた酒を黙って飲み、ごった煮と韮麺麭《ショポン》を腹一杯に喰べると、われ勝ちに脱兎のように逃げ出した。
 コン吉とタヌが次の朝起きて見ると、扉《ドア》の前にドロ山の険しい巓《みね》に生えている輝やくばかりの見事な瑠璃草《るりそう》が十六束置かれてあった。
 一一、タラノ村の和楽、快心の合唱。村の集会は日曜日毎に行なわれた。そして、酔いが廻ると、縮れ毛|金壺眼《かなつぼまなこ》の、鬼のような面相をしたコルシカ人どもは、大々愉快のうちに、タヌに伝授された『タラノ音頭』を合唱するのである。
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Tallano《タラノ》, iitoco《よいとこ》
icchido《いちど》 a《は》 oide《おいで》 docci−ccio《ドッコイショ》
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