#「来所大歓迎。」は1段階大きな文字]
  種々新設備あり。[#「種々新設備あり。」は1段階大きな文字]
[#ここで字下げ終わり]
 という看板が掲げられた。部屋の片隅には、酒棚と番台《ザンク》を作り、棚の上には火酒《オオ・ド・ヴィ》、コニャックの類が並べられ、鹿の首は埃《ほこり》を払われ、賞牌《メダイユ》は一つ一つ真鍮磨きで磨かれもとの場所におさまった。鱒は――もう喰ってしまったものは仕様がない。それがあった場所には、燻製《くんせい》の鰊《にしん》が三匹貼りつけられた。卓の上には韮付焼麺麭《ショポンパン》が山のように盛られ、囲炉裏《いろり》の大鍋には、サフランの花を入れた肉と野菜《ラグウ》のごった煮が煮えあがって、たまらない匂いを村中に振りまいている。玉蜀黍《ポレンタ》の粥《かゆ》とこのラグウは、コルシカ人ならば十里も先から嗅ぎつけて来るというほどの好物だ。
 タヌは番台《ザンク》の前で徳利《とくり》の酒を出したり入れたりし、コン吉は入口の踏み段に腰を掛け、伊太利小笛《スウルドリイス》を吹いて呼び込み[#「呼び込み」に傍点]をしていた。
 やがて、小一時間ほどののち、まるで呪文で引き
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