というものです。もっとも私は大して虎を恐れているわけではありません。なにしろ、コルシカ島に虎がいたなんて話はまだ聞いたことがありませんからね。しかし、コルシカには虎より恐ろしいものがおります」
「と、申しますのは」
「コルシカの山地の人間です。非常に排他的でね。とりわけ、官吏やフィリッピン人……、まあ、そういったものをあまり好きじゃないらしいんですね。官吏や東洋人がコルシカの山地を旅行して、無事に帰ったというのはごくまれだという話です」
これを聞くよりその東洋人は、さっきの威勢もどこへやら目玉をすえて急に黙り込んでしまった。
二、極楽はコルシカにあり船に乗って行くべし。ははあ、そういうわけですか。賭球戯《ルウレット》というやつはいつになっても命とりですな。二十五万|法《フラン》勝って一度に二十五万法すっちまったら、誰れだってそんな気持になりますよ。……人里離れたところで生気を取りもどそうなんてのは、まず至極な思いつきですな。生半《なまなか》繁華なところにいるてえと、見るもの聞くもの癪《しゃく》の種、ってわけでね。つまらない了見を起こしかねませんからねえ。と、いっても北極探険なんての
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