放すと、筒口からは末広形の猛烈な火炎が噴出し、その反動でコン吉は、うしろへでんぐり返り、床に頭を打ちつけてややしばらくはぼうぜんとしていたが、やがて正気にかえり、虎はいかにと煙硝の煙をすかして眺めると、天の助けか、虎は四つ足を天に向けてころがっている。
「や、うまくしとめた! 有難い!」と、二人は急いで扉《ドア》のそとへ駆け出そうとすると、虎の中から現われたのは一人のコルシカ人、脇腹を手でおさえながら雑木林の入口まで這って行ったが、そこで崩れるように草の中へのめり込んでしまった。
 七、コルシカ人を殺せば三界に住家《すみか》なし。これは! と驚きあきれて、コン吉とタヌは扉《ドア》のそばに立すくんでいると、時ならぬ鉄砲の音を聴きつけたタラノの部落民は、てんでに藁松明《ブランドン》とライフル銃をひっさげ、雑木林《マッキオ》の奥から走り出てきたが、そこに倒れているコルシカ人を発見すると、口々になにやら叫びかわしながら、件《くだん》のコルシカ人をかつぎあげ、林の奥に走り込んで行った。
 タヌは瞬きもせずにこの意外な光景を眺めていたが、やがてコン吉を部屋の中へ引きいれ急いで扉《ドア》を閉ざし、息
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