も詰まるような切迫した声で、
「コン吉、しっかりしてちょうだいね。ああ、大変なことになってしまった。怪我《けが》くらいならいいけど、もし殺してしまったんだったら、ただでは済まないわね。あんな真似をしてふざけた方も悪いんだけど、今さらそんなことをいったって仕様がないよ。コン吉、どうする?」と、これはどうやら涙ぐんでいる様子。
日ごろ気丈なタヌの取り乱したようすを見るよりコン吉は、その場の椅子にへたへたと腰をおろしながら、
「ああ、とんだことになった。どうするもこうするも、こういってるうちにも部落の連中がやってくるかも知れないね、逃げるなら今のうちだと思うけど、果してうまく逃げ終わせるかしら」
「さあ、難しいわね」
「僕も難しいと思う。……仮りにだね、あのコルシカ人が死んだとすると、本当にタラノの連中は僕たちをやっつけるだろうか」
「そう、やりかねないね」
「うわア、それじゃ困る。……憲兵なり看守なりに、われわれを引き渡してくれるのなら、必ずこっちに理があるんだけど」
「ああ、もうしょうがないわね。なんにしろ、びっくりしてやったことなんだから、よく理由《わけ》を話して詫びることにしましょ
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