馬車。四頭の白馬にひかせた四輪馬車《ファイトン》の上には、白色のフランス大薔薇と珍種の蘭をもって作りたる巨象をすえ付け、その背には、薄紗《うすしゃ》の面怕《ヤシマック》をつけたアフガニスタンのバレエム王女が乗っている。その次に立ち現われたのは、族館「地中海宮《パレエ・ド・ラ・メディティラネ》」の「大鳥籠《ヴォリエール》」と名付けし二輪馬車《ヴィクトリヤ》。空色の香紫欄花《ジロツフレ》に瑠璃草《ミオティス》で作った鳥籠の中でさえずるのは駒鳥にあらで、水仙黄《ナルシス・ジョオヌ》の散歩服に黒|天鵞絨《ビロウド》の帯をしたる美貌の閨秀《けいしゅう》詩人オウジエ嬢。続いて亜米利加《アメリカ》の百万長者ビュフォン夫人の「金の胡蝶」、聖林《ハリウッド》の大女優リカルド・コルテスの「ゴンドラ」、ドイネの名家ド・リュール夫人の「路易《ルイ》十五世時代の花籠」、……清楚なるもの、濃艶なるもの、紫花紅草、朱唇緑眉、いずれが花かと見|紛《まご》うまでに、百花繚乱と咲き誇る。期せずして桟敷《さじき》の上よりは、ミモザの花、巴旦杏《アマンド》の枝、菫《すみれ》・鈴蘭・チュウリップと、手当り任せに投げつければ、車
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