国人の微妙なる差別を広く一般に示すはこの時なり。是が非でも一等賞を獲得し、かたがたもっていささか皇国《みくに》の光を異境に発揚せずんばあるべからず、とコン吉においてはタヌもろ共、ああでもない、こうでもない、「首」ひねったあげく、やがて妙趣天来。念を入れたうえにも念を入れ、手配り万般、ここに相整いまして、いまやその日を待つばかり。
 三、白地に赤き日の丸の旗翻るニース海岸。合衆国河岸《ケエ・デゼ・ダシュニ》に沿って今日の花合戦のために仮設されたる※[#4分の1、1−9−19]|粁《キロ》三階の大桟敷《トリビュウヌ》。花馬車はすなわちこの桟敷《さじき》の前を軽歩して、桟敷の貴縉《きけん》紳士と花束の投げ合いをしようという仕組み。さるにても花馬車には、欧米に名だたる美形佳人が搭乗するのが古来の法式ゆえ、ふらんす・あるまん・あんぐれい、秀才・豚児の嫌いなく、この期《ご》に来たり合わしつる身の妙果。世界に著名《なだか》き美人のお手から、せめて腐れた菫《すみれ》の花束でも、一つ投げられて終生の護符《おまもり》にしよう、席料の三百|法《フラン》、五百法は嫌うところにあらず、と逆《のぼせ》あがってぞ控
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