返るような大混雑、大盛況。有銭無銭の大群集は、それぞれ費用と場所をわきまえて、ただもう一|切《さい》夢中に法楽する。――虚空《こくう》に花降り音楽きこえ、霊香《れいきょう》四方《よも》薫《くん》ずる、これぞ現世極楽の一|大顕出《エピファニイ》。

 さるにても同行タヌキ嬢の虐待酷使を受け、ついに心神耗弱したるコントラ・バスの研究生|狐《きつね》のコン吉氏は、その脳神経に栄養を与えるため、常春《とこはる》の碧瑠璃海岸《コオト・ダジュウル》に向けて巴里《パリー》を出発したが、その途中において数々の不可解なる事件に遭遇。かてて加えて、芬蘭土《フィンランド》の大公爵と自称する、マルセイユ市の馬具商、当時、南海サン・マルセルの精神病院《メエゾン・ド・サンテ》在住のモンド氏なる人物に逅遇《かいぐう》。神秘的なる生活を余儀なくされ、涙ぐましき因縁《いんねん》により一時は中華民国人にまでなりあがり、はなはだ光栄ある日夜を送っていたが、幸いモンド氏も納まるところに納まり、このぶんではどうやら一命は取り止めた、と、ホッと一息。されば今度《このたび》この地において花馬車競技があるというにより、日本人と中華民
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