ない[#「まともでない」に傍点]公爵の勝つわけがあるものか。僕なら、早く帰って、またマカロニでも喰べてひっくり返ってる方がましだ」というと、タヌは、
「でもね、コン吉、どうせ賭球盤《ルウレット》だって狂人《きちがい》でしょう。公爵も、ま、それに近いわけね。だからこの二つを組合わせると、ことによったらことによるかも知れない、と思うのよ。どうせここに持ってるのは千法とちょっとよ。さっき皆負けてしまったことにすれば、これで公爵の珍技を拝見するのも悪くないわね。万一、ひょっとしてあの公爵が勝ったら、賭球盤《ルウレット》よ、大きなことをいうな! だわ」
公爵は二人が賭博室《サル・ド・ジュウ》へ入って来るのを待ちかねて、
「あなたがたの負けたのはどの卓《タアブル》ですか」とたずねた。コン吉が食堂に近い No. 6 の卓《タアブル》を指し示すと、公爵は、|玉廻し役《クルウピエ》の隣りの椅子にムズとばかりに坐りながら、
「ひとつ総仕舞《そうじまい》にして、花を飾らしてやらなければならん」
公爵は天井を仰ぎ、人々の顔を眺め、悠然《ゆうぜん》と、あちらこちら見廻していたが、やがて、窓越しに見える巴里珈
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