うですが、花畠の買占めはチト横暴ですナ。※[#歌記号、1−3−28]先んずれば人を制すサ。貴公もおおいに戦略を用いて対抗するがよかろう。※[#歌記号、1−3−28]|御内室《マダム》、今年のお馬車の標題は何と申しますネ。※[#歌記号、1−3−28]はい、「天国の夢」と申します。素馨《ジャサント》の天使にリラの竪琴を飾るつもりでございますヨ。※[#歌記号、1−3−28]では、手前は一枚|上手《うわて》をいって、「地獄の番卒」とでもいたしましょうかネ。――喧々囂々《がやがやもうもう》、耳を聾《ろう》するばかり。
すると、ここに、海ぞいの窓ぎわに席を占めた男女二人の若き東洋人、満堂の噪聒《そうてん》乱語を空吹く風と聞き流し、※[#歌記号、1−3−28]ナニ、花馬車の一等賞はこっちのものサ。と、ゆうゆうと冷凍菓子《グラス》をすすっているのは、どうやら子細《しさい》ありげな有様であった。
やがて、午後一時四十分、ニースはランピア港の税関|河岸《がし》を離れたコルシカ島行きの遊覧船は、粋士佳人を満載して、鴎《かもめ》と紛《まご》う白き船体に碧波を映しながら、遊楽館《カジノ》の大|玻璃窓《はりま
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