らね」と、いいながら、大判の名刺ぐらいもある、紺青の千法の賭牌《ジュットン》を、すぐ手近かの MANQUE《さきめ》 と刷ってある青羅紗《タピ》の上へ、まるで古い財布でも捨てるように、ポイとばかりに投げ出した。
 |廻し役《クルウピエ》は、※[#始め二重括弧、1−2−54]|賭けたり、賭けたり《フェエト・ヴォ・ジュウ・メッシュウ》※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、しきりに勧誘していたが、おおかた一座が賭《は》り終えたのを見すますと、やがて廻旋軸《シランドル》を右に廻し、その運動の方向の反対側へ、白い象牙の玉を投げ込んだ。
 玉は仕切りの横金に衝突しては飛びあがり、ニッケル盆の斜面を駆けあがってはすべり落ち、はなはだ活発な運動をしている様子。
 一座|闃《げき》として声なく、ただ聞えるものは、白骨が打ち合うようなカラカラと鳴る玉の音ばかり。
 コン吉は、野兎の足を衣嚢《かくし》から取り出し、念を入れて三度鼻の頭を撫で、様子いかにと待ち構えていると、玉はおいおい活気を失い、|廻し役《クルウピエ》が※[#始め二重括弧、1−2−54]|賭け方最早これまで《オン・ヌ・ヴァ・プリユ》※[#終
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