《カナリヤ》よ! さようなら。二十八歳まで生きて来て、そう、アイス・クリームになってこの世を去りますのも、みな神様の思召《おぼしめし》でございます。ではご機嫌よう。冷蔵庫の中からお幸福《しあわせ》をお祈りいたします。あの、なんとおっしゃいます? いいえ、とんでもない。どうして私が、見ず知らずのお両人《ふたり》さまから、三千法などという大金をちょうだいできましょう。そんなことを致しますくらいなら、この窓から飛び下りて死んだ方がましでございます。どうぞご心配無用に、……有難うございます、けれども、……なんというご親切……まるで夢のようで、夢ならばどうぞ醒《さ》めませんように、……はい、はい、ではお言葉に甘えまして有難くちょうだいいたします。……このご返礼と申すわけではございませんが、お両人《ふたり》さまに幸福の鍵を一つお譲りいたしとうございます。「明日午後二時」、オテル・リッツの一〇一号室をお訪ね下さいまし。そこで非常な幸運に廻り合うことがおできになりましょう。……一〇一号室でございますよ。どうぞ、お間違いなく。
五、「招けば来る森羅万象」の秘法。アフリカの叢林《ジャングル》もかくやと思
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